局所麻酔薬による全身的偶発症

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局所麻酔薬による全身的偶発症には以下の4つがあります。

1. 神経性ショック(疼痛性ショック、心因性ショック)

歯科診療中の全身的偶発症のうち、もっとも頻度の高いものです。
精神的な不安や緊張状態にある中で、強い痛みが加わることにより「血管迷走神経反射」(三叉神経から伝わる痛み刺激が副交感神経である迷走神経に伝わる神
経反射)が起こり、心拍数、血圧が減少することによって気分不良や意識消失などが起こる偶発症です。

きっかけは緊張と痛みですから必ずしも歯科治療時だけに起こることではないのですが、昔から歯の治療や局所麻酔は痛いという暗黒神話があり、過度に緊張し
てこられる患者さんが多く、実際の多少の痛みも相まってこの全身偶発症を起こすことが多いため、過去には「デンタルショック」と呼称された時期もありました。そして残念ながら実際のところ、歯科医師が一番経験する偶発症であると思います。

症状を列記すると

①顔面蒼白、冷や汗、周囲への無関心(反応が鈍くなる)、四肢の無力状態、嘔気、

②徐脈、血圧低下、

③意識消失です。意識消失が起こることはまれで、たいていの場合、気分不良や嘔気などで収まることが多く、横になって酸素を投与し、ゆっくりしていれば回復します

2. 過換気症候群

40歳以下の女性に多く、きっかけは神経性ショックと似ており、極度の不安や緊張、恐怖などで過換気を発症します。

症状は過呼吸以外に

①末梢神経症状:口唇周囲・手足の知覚異常やしびれ感、

②筋肉症状:手足の硬直、けいれん、

③心血管系症状:頻脈、不整脈、胸が苦しい、胸痛、

④消化器症状:腹部膨満、腹痛などです。

怖いのは症状の増悪に伴って恐怖感が増幅し、このまま死ぬのではないかなどと考えだし、過呼吸が助長されるという悪循環に陥ることです。

対処としては、とにかくゆっくりと呼吸することとこれが命に関わるものではないことを理解させることです。

よくドラマなどに出てくる袋を口に被せるのは、最終手段です。いきなり袋を口に被せるとよけいにパニックになることもありますので。

3. 局所麻酔薬中毒

歯科治療で汎用される局所麻酔薬であるリドカインは過量投与しないよう注意喚起されていますが、思いがけず血中濃度が高くなる場合があります。
それは血管内に直接注入された場合と小児や高齢者のように薬剤の代謝能力が低
い患者への投与です。

症状は

①興奮、多弁、めまい、頭痛、耳鳴り、顔面紅潮、悪心、嘔吐、

②血圧上昇、頻脈、頻呼吸、

③顔面や四肢末端の痙攣、振戦から全身痙攣へ移行、

末期になると④意識消失、⑤血圧低下、徐脈、呼吸の停止。

さて、
①の場合はたいてい酸素投与と安静で事なきを得ますが、②や③になると一段階ギアを上げる必要があります。

つまり静脈路の確保と鎮静薬の投与です。
それができなくても、この時点で救急車はコールします。

4. 局所麻酔薬アレルギー(Ⅰ型アレルギー)

アレルギーは急激な速度で重篤な症状を呈するものから、ゆっくりと症状が出現する遅発性のものまでありますが、やはりⅠ型のアナフィラキシーが命に係わるアレルギーとして知られ、即時対応が望まれます。

アナフィラキシーの症状は多彩で進行が速いため、まごまごしているとあっという間に危険な状態になることがあります。

症状は

①皮膚症状:掻痒感、紅斑および顔面から胸部にかけての蕁麻疹、血管浮腫など、

②消化器症状:嘔気、嘔吐、腹痛、大便失禁、

③呼吸器症状:胸部圧迫感、胸痛、気管支痙攣、呼吸困難、喉頭浮腫、気道閉塞、

④循環器症状:顔面蒼白、動悸、頻脈、血圧低下、不整脈、心停止など。

これらの症状が数分から15分ぐらいの間に進行していきます。
歯科医院で行うべき対応は何はさておき救急車の要請です。
同時進行でモニタリング、アドレナリンの筋注、酸素投与、ショック体位、AEDの装着、可能であれば静脈路を確保します。

AEDはパッドを付ければ勝手に心電図を測り、除細動の必要な不整脈の場合は音声で教えてくれます。

歯科医院でできる対処はここまでです。

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